ガンジス川での沐浴
さて、旅も最後のエリア、アジアに入りました。
1月に成田を出発し、北アメリカ、南アメリカ、ヨーロッパ、北アフリカを経て、最後にアジアです。
旅も残り一カ月ほど。そろそろ終わろうとしています。
アジアの最初の国、インド。
インドでは、ニューデリー、アグラ、バラナシの主要都市を訪れました。
アグラのタージマハルも綺麗でしたが、
何よりも印象に残っているのは、バラナシのガンジス川です。
遅れることで有名なインドの夜行列車は、案の定遅れ、アグラから約15時間かけてバラナシに到着。
駅から出た瞬間、インド人のリヤカーの客引きが、すごい勢いで寄ってきます。
気づいたら、10人くらいに囲まれてる・・・。
インドではいつもこんな感じ。
なんとか逃げて、ひとりのおじいさんを選んで乗ったのですが、ホテルに行ってよ!と言ったのに、よく分からないところで降ろされる。
周りは人人人、牛、犬、脱糞。
凄まじい喧騒と匂い。
ああ、嘘つかれたな、と思って途方にくれていたら、別の道端にいたインド人がホテルまで電話をかけて助けてくれる。
不思議な国です。
***
なんとかガンジス川の近くのホテルに辿り着き、一休み。
バラナシ滞在は2日間だけ。
なので、早速ホテルを出て、ガンジス川の川辺を歩くことに。
川辺をしばらく歩いていると、火葬場がありました。
近くのベンチに、そっと腰掛けます。
火葬が始まります。
大切に布で包まれた遺体を、宗教的な建物から川辺まで運んでくる数人の男たち。
先頭に「ヒンドゥー式の白い喪服」を着ている人がいましたが、その人が、遺体の一番の近親者、そしてこの火葬を執り行う人と教えてもらいました。
遺体の周りには、男性のみ。女性はいません。
なぜ女性がいないかというと、ヒンドゥー教では、火葬中に泣くことは許されません。涙を流すと、死者の魂が天界に行けず、この世にとどまってしまうと考えられているからです。
女性は、感情的なので泣いてしまうかもしれない。だから、女性は、火葬のそばにはいれない。そのかわり、女性たちを乗せた船が何度か往復して、ガンジス川の上から火葬の風景を見ています。
男6人で遺体を持ち上げ、ガンジス川の水に何度か浸し清めます。
そして、薪の上に置かれる遺体。
最後に、遺体の顔の部分の布をめくり、家族が写真撮影をしています。
この遺体の周りには、多くの人が集まっていました。
顔を再び布で覆い、お祈りを捧げ、右回りで何度か遺体の周りを周りながら、白い喪服を着た親近者の男性が手に持っていた火を、体の上に置きました。
遺体が目の前で、真黒になって燃えていきます。
人の体が焼けていくのを、はじめて自分の眼で見ました。
先ほど、家族での最後の写真撮影の時に、一瞬見えた遺体の顔が、何度も頭の中をよぎります。まだ30代か40代の、若い男の方でした。おそらく、火葬を執り行う白い服を着た男性の、兄弟か子供なのでしょう。
不思議と、恐ろしいとか、目を背けたくなるとか、負の感情にはならなかった。
はじめは気が動転しましたが、徐々に心が静かになっていきます。
ここで、毎日のように行われる光景。
私にとっては全くの非日常。
白い喪服の男性が、静かに遺体の横に座っています。
頭を全部剃り、ガンジス川で自らの身も清め、祈りを捧げた後、一番大切な人の体に、自らの手で火をつける。
すべての行為を、淡々と行っています。
この人の表情を、私は一生忘れないでしょう。
涙が出そうになりました。
インドでは、死と生が近くにあります。
***
次の日の朝、ガンジス川で、沐浴しました。
ヒンドゥー教の人たちにとって、すべてを洗い流してくれる、特別な聖なる川。
ゆっくりと足から入り、胸まで水につかります。
手を合わせ、太陽に向かって目を閉じます。
自然と、祈っていました。
「生かしてくれてありがとう」
いつか、自分も死にます。
そして、昨日見た遺体のように、焼かれて、骨だけが残るのでしょう。
その時、自分の隣で死を嘆いてくれる人がいたら、幸せなことなのだと思います。
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